頭痛が痛い

怪文を綴る腐女子

夏空の下で、私は整理券を握りしめていた。

 

 

 

時は8月真っ只中。連日襲い来る38度の真夏日に私はブーンブンシャカする元気もなく、日々を怠惰に過ごしていた。

 

しかし、8月14日。この日、私は絶対に家から出なければならぬ用事があった。

匿名ラジオがグッズ化して、アニメイトでフェアを行うというのである。

「匿名ラジオ」って何?と思った方は、以前私が誰にも頼まれていないのに勝手に匿名ラジオをプレゼンした記事があるので、よかったらそちらをどうぞ。

tehu-pipipi.hatenablog.com

 

匿名ラジオはアニメではないし、パーソナリティの2人はアニメに携わる人でもない。ただ成人男性が毎週くっちゃべっているだけのコンテンツなのに何故?よくわからんが、匿名ラジオのリスナーがアニメイトでキャラ物グッズを買うタイプのオタクだと完全にバレているあたり、流石だなと感心した。私も例に漏れずアニメイトでキャラ物グッズを買うタイプのキモいオタクなので、フェア開始初日にアニメイト梅田店へ行こうと決心した。幸い自宅から梅田までは電車一本で行けるので、そこまで遠出でもない。パッと行ってシャッと帰ってこよう。当時の私はそう思っていた。

しかし、時が近づくにつれ、私の中である感情が大きくなっていく。

 

めんどくさい。

 

めんどくさい。

 

 

めんどくさい!!!!!!

 

そう、外出するのが面倒になってきたのだ。この炎天下の中?梅田のアニメイトまで?行くんすか?マジ?グッズ欲しい〜の気持ちと同じくらい、めんどくせ〜の気持ちが膨らんでゆく。もう通販でよくない?そう思い、アニメイトオンラインで匿名ラジオのグッズを探した。

しかしここで壁に直面する。オンラインだとボックス買いが出来ないのである。これまで数々のランダム商法に苦しめられてきた我々に残された唯一の希望、それが「ロットで買えばだいたい全種類が揃う」ボックス買いである。悩みどころだ。仮に8個注文したとして、届いたのが全て同じARuFa氏だったら最悪である。これはもう、確実にボックスを手に取れる店舗に直接行くしかないのではないだろうか。くぅ〜〜ラバスト欲しい〜〜でも外出めんどくせ〜〜〜でもラバスト欲しいよ〜〜〜〜。とにかく明日は梅田まで行かネバダ……!そう決心して、酒を飲んでベッドに入った。

 

 


翌日。

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難波の宿が予約されていた。(※)

なんで?????首を捻りながら、昨夜の行いを思い出す。

そうだ、「明日は鉛のように重たい腰を上げて頑張って梅田まで行くぞ!」と、私はこだわり酒場のレモンサワーに固く誓ったのだ。そして私は考えた。私の腰を上げさせるには、私利私欲(グッズを買う)以外に、「行かなければ誰かに迷惑がかかる」くらいの状況を作らなければならない。そうでもしないと私は絶対に動かない。それならば、梅田方面に宿を取ればいいのである。そうすれば予約をドタキャンするわけにはいかないので必然的に外出せざるを得ないし、しかもグッズ購入後はすぐに休める。私めっちゃ天才かもしれん……。

おそらく、概ねこのような考えであろう。「酔って狂う」と書いて「酔狂」とはよく言ったものである。これを酔狂と呼ばずしてなんと呼ぼうか。私は昨夜の酔っ払いの私に言いたい。

 

 

 

 


あんた天才だよ!!!!!!!


酔っ払いの私が予約したこのホテルは、ライブやイベントで遠征する人ならみんなお世話になっているであろうホテルである。昨今の事情(匿名ラジオ風に言うなら「動物園から虎が800匹逃げ出した」)によりイベント遠征する機会も大幅に減り、最近はめっきり使わなくなってしまった。公式サイトで値段を確認しても、なんと一番安いプランで2500円にまで値下がりしている。普段金曜日に泊まろうとしたら5〜6000円はするというのに……。きっとこのホテルも困っているに違いない。私は推しに金を落とせるだけ落としたいオタクである。それは成人男性が喋っているだけのラジオでも、ホテルでも同じことなのだ。

昨夜の私も同じことを考えたようで、わざわざ一番高いプランを予約していた。しかしよくよく見たらクオカード付きのプランであり、この酔狂な宿泊は誰も経費で落としてくれないため、私はただ自腹で割高のクオカードを買っただけだった。

(※梅田ではなく難波を予約した理由は、梅田の方が休業中だったからである。頑張って……!)

 

 


そして14日の昼。今晩の宿を得た私は、意気揚々と梅田へ繰り出した。10分ほど迷子になりながらもなんとかアニメイトへ辿り着き、匿名ラジオのコーナーを探す。店内を2周ほどして、匿名ラジオコーナーはようやく見つかった。什器のエンドと呼ばれるほっそ〜いところで細々と展開されていた。まあ所詮インターネットの片隅でオモロやってるだけのラジオだもんね……と私がコーナーを覗いていると、


店員「こちらのコーナーは整理券をお持ちの方のみご購入いただけま〜す」


整理券?????

 


「匿名ラジオ」と「整理券」が結びつかなさすぎて、しばらくその場で放心した。整理券ってあの……鬼滅の刃みたいな人気アニメのフェアで配ってるやつ……?????


店員「整理券をお求めの方はレジでお申し付けくださ〜い」


や、やっぱり「整理券」って言ってる!!!なんの冗談だ!?!?あのネットラジオのグッズを求める人がそんなにいるのか!?イケメンでもなんでもないただの目線と仮面の成人男性だぞ!?いや私もその目線と仮面の男のグッズが欲しくて来店したオタクの一人だが!!はずかし!!!

この時点で正直「もう帰ろうかな……」と思った。非常に傲慢なことを言うが、匿名ラジオがここまで人気コンテンツになっていることが信じられなかったのである。イケメンでもなんでもない目線と仮面の男のグッズを求めてはるばる(1時間もかかっていないが)梅田までやって来た自分が、急に恥ずかしくなってきた。確かにラジオは面白いけど、冷静に考えてグッズとか欲しいか……?この日宿を予約していなければ、きっとここで帰っていたと思う。私は「せっかくホテル予約したし」という思いだけで、レジで整理券を貰った。店員さん相手に「なんかあの〜、デュフッ、匿名……ラジオ?の整理券って、エフッ貰えます?」と謎に「匿名ラジオをよく知らないキモオタ」を演じてしまった。キモオタは演技ではないが。

 

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貰った整理券を見ると、集合時間までまだ1時間以上ある。仕方ないので、カラオケで時間を潰すことにした。移動中、整理券を握り締めながら匿名ラジオのことを考える。張り切ってグッズを買いに来たのに突然意気消沈した自分が情けなく感じて、私の中の「好き」が揺らいでいく。カラオケの部屋に入って、「Pretender」を歌った。


――グッバイ それじゃ僕にとって君は何?


私にとって「匿名ラジオ」ってなんなんだ?

Official髭男dismは何も答えてはくれなかった。

 

 


整理券の集合時間になって、私はアニメイトへ戻った。程なくして列形成が始まる。30人程のオタクがわらわらと集まり、店員さんの指示に従って大人しく並んだ。しかし、ここで店員さんが申し訳なさそうにオタクたちに説明し始めた。なんと、グッズのほとんどが完売したのだという。そして、私が求めていたラバストも完売したらしい。

終わった。

私は完全に脱力した。これではなんのために梅田まで来たのかわからない。半ベソになりながらツイッターを開く。他になんかめぼしいグッズあるかなぁ、とグッズ一覧を眺めた。

ラバストは売り切れたんだよな……アクスタも売り切れらしいし……キーホルダーも……

 

いや、待てよ。

 

 

 


ほぼ売り切れてる!!!!!!!!!(スケンコ)

 

 

 


ついさっき店員さんが読み上げた完売商品と、今回のフェア用に発表されたグッズを照らし合わせると、そのほとんどが売り切れていた。嘘だろ?ラバストどころかほとんど????ほとんど売り切れたの?????そんな……そんなことって……

 

 

 

 

 

 

 

 


最高かよ…………!!!!!!

 

 

 

私は笑いを堪えるのに必死だった。いやだって、ほとんど売り切れて!!!!あの匿名ラジオのグッズが!!!!売り切れ!!!!早すぎ!!!!!ここが自宅なら、腹を抱えて笑い転げていたところだ。さっきまでのPretenderはどこへやら、私のテンションは完全に睡蓮花になった。

昼過ぎにグッズがほとんどなくなるような超人気コンテンツなのに午後2時にのこのこと来店した舐めプオタクは誰……

 

 

俺!俺!俺!俺!Ole!Ole!

アァ〜〜〜〜〜!!!!真夏のジャンボリ〜〜〜〜〜〜!!!!!(レゲエ砂浜ビッグウェーブ

 

 

匿名ラジオのオタクを舐め腐っていた自分が、一周回ってめちゃくちゃ面白くなってきた。一緒に列に並ぶ同士と肩を叩いて、はないちもんめでもしたい気分である。買〜って嬉しいはないちもんめ!なんつって!もう買うもんねぇけどな!ガハハ!私が脳内で一人はないちもんめをしているとは露知らず、目の前のギャルが「何の列?匿名ラジオ?知らんわ……」とか会話しているのすら眩しい。そうか君らは知らんのか!我々と同じユーモアを共有出来ないのだな!一人で前後の列に並ぶ人たちを勝手に仲間扱いして、一人で盛り上がる。しかし匿名ラジオのユーモアを共有しているオタクなど、同じ釜の飯を食っているのと同じようなものである。私が一方的にそう感じているだけなのだが。

そうこうしているうちに私の番になり、待望の匿名ラジオコーナーに足を運ぶ。コーナーのモニターでは撮り下ろし音源が流れており、パーソナリティの2人が「グッズ完売させてくれ!」と切実な声で叫んでいた。ヨッシャ!任せとけってんだい!この時点で棚にはほぼ何も残っていなかったが、ハイになった私はよくわからないまま手当たり次第カゴに入れた。推しに金を落としたいオタクの悪い癖である。あとパーソナリティの2人は「よく知らないコンテンツのグッズを買うってイカしてる」「よく知らない成人男性2人のグッズを買ってくれ」とファンではない層にも語りかけていたが、これだけは「こちとら整理券を得てようやく買いに来てんだよ!」とキレそうになった。

そしてなんとか買い物を済ませ、私は今晩の宿へ向かった。未だハイになったままなので無印良品でカレーを買ったし、1人で鳥貴族にも入った。果実酒をロックで頼んだら、相変わらず雀の涙みたいな量の酒が出てきた。これが検尿なら、検査に支障が出そうなレベルの少なさである。

 

 

結局、私は炎天下の中えっちらおっちら梅田まで出てきたくせに、目的のグッズは買えずに無駄に一泊した。今日の私を見て、いったい何をしに行ったんだと笑う人もいるかもしれない。まあいい、笑いたければ笑え。ただ、今の私の気分は夏の空のように晴れやかだ。アニメイトで整理券を貰った直後は、確かに自分でも「何をしに来たんだろう」としょんぼりしていた。しかし、私と同じように匿名ラジオのグッズを求めてやって来たオタクたちの存在を見て、私は確信した。

 

私はあの日、私の中の「好き」を確かめに来たのだ。

 

私、「匿名ラジオ」めっちゃ好きじゃん!イケメンでもなんでもないただの目線と仮面の成人男性が喋ってるだけのラジオが、私はめっちゃ好きだ!自分たちを二次元化して挙げ句の果てに美少女化してオタクに媚びるところも、それにまんまと手のひらで転がされている私も、めちゃくちゃ好き!

何かつっかえていた物がポロっと取れたような、そんな清々しい気持ちだ。好きなものは、もっと胸を張って「好き」でいよう。お金を出すかどうかは別としても、ちゃんと「好き」を発信して応援しよう。匿名ラジオに限った話ではないが、今回の出来事でより強く、そう思ったのだった。

 

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ホテルのベッドで、フェアの特典で貰ったブロマイドを眺める。ランダム配布だったが、割と好きな回のブロマイドが当たって嬉しい。

またいつかフェアが行われて整理券が配られる時があれば、その時は胸を張ってはっきりと、「匿名ラジオのフェアの整理券をください」と言おうと思う。